酒とタバコとジャズピアニスト
僕はジャズピアニストで、しかし、お酒を飲むことができません。
タバコも同様です。
コーヒーに至っては、心拍数が上がるので、肉を食べたあとにほんの少し飲むくらいです。
現代では考えられないかもしれませんが、僕が若かったころ、お酒やタバコが出来ないと、成人の社会で受け入れられることは難しかったものです。
気の知れた友人とは問題ありませんが、初対面の人や目上の人、あるいは距離を感じる人ほど、お酒やタバコはコミュニケーションの潤滑剤でした。
特にジャズの世界では、お酒を飲めないと、お客さんの好意を断ることも多く、またクライアントにも好印象を与えられないこともありました。
「ここにあるお酒、何でも飲んでいいよ」と言われたとき、とても申し訳ない気持ちになりました。
お酒を愛する人々にとって、それはまさに天国のような場所だったことでしょう。
それでも僕は、仮にお酒が飲める体だったとしても、お酒を飲むことはなかったと思います。
僕はあまり器用なピアニストではないので、お酒を飲むと感覚が鈍ってしまい、ピアノを練習することも、深く味わうこともできなくなる気がします。
それがたとえ3%の麻痺であったとしても、10日で30%、100日で300%、それは本来の自分ではない自分がピアノを弾いていると感じてしまい、非常にもったいないと思います。
それはけちなのかもしれません。
しかし、奥さんは僕のそのようなところは独特すぎて、お酒なんかいらないでしょうと言ってくれます。